慢性痛とストレスについて
急性痛とは明らかな損傷(ケガや病気)があり、それが原因となって生じるものです。
たとえば、運動会の翌日の筋肉痛や軽い捻挫による痛みが急性痛にあたります。これらの痛みは、時間とともに軽減してくるでしょう。
つまり、急性痛は身体に対する警告信号であり、ケガが治癒する過程で必要なものです。
慢性痛とは、損傷が明らかに治癒しているにもかかわらず、痛みが残存している場合をいいます。 つまり、「ケガや病気の程度」と「痛みの程度」が釣り合わない状態が慢性痛です。 また、変形性膝関節症や関節リウマチの場合は、関節の損傷や炎症が持続しているため、「急性痛の慢性痛化」という痛み症状となり、多くの高齢者がこのような痛みに苦悩しております。
たとえば、頚部痛、肩こり、五十肩、腰痛、むち打ち、骨折、ヘルペス等があります。
最初はこれらが原因の急性痛を生じます。その痛みが一向に治らずに慢性痛へと移行することで、本人様は悲観的・否定的な感情が生じてストレスが溜まり、徐々にうつ的な気持ちになってしまいます。そうなると、本人様の「痛みによる苦悩」の中身は「慢性痛という痛み感覚」だけではなく、「ストレス・うつ気分」も混ざった状態になります。そして「ストレス・うつ気分」は、時間の経過とともに拡大していき、ますます痛みを意識してしまうのです。
これは「痛み→ストレス→痛みによる苦悩増強→ストレス増強」という悪循環です。
しばしば、病院で慢性痛の患者様に抗うつ薬が処方されることがあります。その理由は、この「うつ気分」を改善し、本人様を取り巻く苦悩を少しでも縮小することを狙ったものです。
たとえば、「犬を飼い始めて散歩するようになったら腰痛が改善した」という例があります。確かにこれは散歩による軽い運動が有効であったと思います。しかし、それに加え、散歩によって外の空気を吸って自然に触れ、犬を通して近所の方々とコミュニケーションをとるといったことがストレス解消となり、腰痛軽減に効果があったともいえます。
ストレス発散やうつ改善で、痛みが完全になくなるとは思いません。もちろん、痛みの原因である病気はまだ残っているでしょう。しかし、痛みが少しでも軽くなれば気持ちも明るくなり、痛みに振り回されずに生きていく意欲が出てくるのではないでしょうか。
残るは慢性痛の原因となっている病気への治療です。「膝が痛い」、「腰が痛い」といっても、その膝や腰がどうなっているのかによって治療も違います。腰痛の場合でも、腰椎捻挫、脊椎分離症(すべり症)、変形性脊椎症、圧迫骨折、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症等、たくさんあります。まずは痛みの原因をはっきり診断してもらうことが大切ですその後は、自分に合った病院などに通いましょう。そこでいろんな人と今までの苦労話や痛み自慢でもしながら、焦らず気長に前向きな生活を送ることが大切です
<出典>
松原 貴子: 第3章 慢性痛,機能障害科学入門(第1版)
千住 英明(監). 九州神陵文庫, 福岡